その2

津村記久子「ミュージック・ブレス・ユー!!」

この本を読まなければ、私は感想文を日記に書こうとは思わなかっただろう。
全て読み終わってから、帯を読んで驚愕した。「超低空飛行でとにかくイケてない、でも振り返ってみればいとおしい日々」。え、この話、そういう話だったか?「普通の高校生の、いろいろ揺れ動きながら何かを求めている気持ちが痛いほど伝わってくる」あの、普通の高校生ってアザミのことじゃないですよね、チユキのことですよね?
だって、アザミってADHDアスペルガーだぞ?それを「普通」とくくれない・くくらないことは精神科医としてどうなのかっていう問題はさておき、アザミに共感できる人って同じタイプなんじゃないかっていうこともさておき。
私はアザミに共感できなかった。チユキにも共感できなかった。下手したら誰にも共感できなかった。それがこの話のいいところなんじゃないかと思う。
でも、それを認めるまでには時間がかかった。はてなで感想文を書かれてる人をちらっと検索して、そう思った。「よかった!」と書いてる人は少数派で、「まあまあ」「苦手」と書いてある人の方が割合多かったと思う。それはきっと、共感できないことが気持ち悪かったからなんじゃないかなあ。
高校生小説って、共感できるだろうっていう前提で読んでる気がする。そこを裏切ってくれるのがこの話の良さなんだと、私は思ったんだけど。違うかな。
超低空飛行、それは一般人(ADHDでもアスペでもない人、という意味)の感想だ。一通り読んだ私の記憶では、アザミは一回もそんなふうには思ってない。メイケくんとアヤカちゃんの一件のあとは少し落ち込んでたみたいだけど、自覚はしてないようだし。振り返ってみればいとおしい、そんなのも一般人の感想で、アザミは同じように生きていくんだから、この頃がいとおしいもへったくれもないと思う。
作者は、共感できなくていいんですよ、と言ってるんじゃないの?だからこそあの医者の描写があるんだと思った。そこに逃げ道を造ってるんだと思った、違うのかな。
でもまあ、売るためにはそういうあおり文句をつけなければならないのだろう。それはなんて悲しいことか。野間文芸新人賞受賞作らしいけど、まさか「ありふれた日常が輝く様子を切り取っているから」という理由で選ばれたんじゃあるまいな。
もし「じゃああんたはこの話、どうなの」と訊かれたら、「嫌いじゃない」と答えるだろう。「嫌いじゃない」っていうより「引っかかる」、かな。考え続けてしまう。アザミのこと、チユキのこと。それがこの話の一番の良さだと思う、私はね。
「ミュージック・ブレス・ユー!!」に関しては、まだまだ感想が書き足りない。またあらためて書くかも。